ロケットの実物大模型がある山の公園。時間が遅いこともあり、歩いて一周しても被写体となる鳥は見つからない。缶コーヒーを片手にベンチで休んでいた。
近くの斜面に鳥が飛んできた。キセキレイだ。そっと近づいてゆっくりとしゃがむ。キセキレイはちょこちょこと歩いて石の上に乗った。
ローアングルで背景がスッキリ抜ける。はからずも満足のいく写真が撮れた。長くしゃがむと腰にくるので早めに立ち上がる。
このタイミングで飛ばれることが多い。この日のキセキレイは違った。地面をついばみながら歩き続けている。警戒心のうすい個体らしい。
それならばと、またしゃがんでジワジワとにじり寄る。それでも逃げない。しゃがんだまま動かずにいると、逆に向こうから近づいてきた。

ワタシを撮ってぇと迫るキセキレイ。腰が痛いんだってば...
こちらが先にギブアップする。しゃがんだ姿勢で撮り続けていたら、腰が悲鳴をあげたのだ。もう限界と立ち上がって背を向ける。そのタイミングでキセキレイは飛んでいった。
公園の鳥だから人の存在には慣れている。それにしても、人を恐れないキセキレイだった。ひょっとして、餌付けされている個体なのか。そんな疑念も湧いてきた。
街の公園ではベンチに座って鳩にエサをやっている老人を見かける。同じように、ここでも野鳥にエサを与えている人がいるのかもしれない。
ベンチで休んでいるときに近くへ飛んできたのは、エサをくれると期待したせいなのか。背を向けたタイミングで飛び去ったのは、エサは期待できないと判断したせいなのか。
駐車場に向かって歩きながら、頭の中で想像をめぐらしていた。前方に自分の車が見えてくる。何かヘンだ。ハクセキレイがボンネットの上で騒いでいる。
車に近づいてもハクセキレイは逃げようとしない。鳴き声をあげながら、フロントガラスに向かって威嚇するしぐさを見せる。
ハクセキレイが騒いでいる理由がみえてきた。フロントガラスに映る自分の姿をほかの鳥だと思っている。自分のテリトリーから追い出そうと威嚇しているのだ。
そのハクセキレイの振る舞いが途中から変わった。ガラスに映る自分の姿を凝視している。相手の動きが自分とシンクロしていることに気がついたのかもしれない。
自己と対話するハクセキレイ
その日の午後は、港で魚を狩るカツオドリを撮影した。ナイスショットは撮れなかったけれど、ダイナミックに海面を飛び交うカツオドリの群れは見応えがあった。
本当は、そのカツオドリについて書くつもりだった。実際にパソコンに向かうと、山の公園で出会った2羽のセキレイの姿が頭に浮かんだ。
どこにでもいるキセキレイとハクセキレイ。でも、その日出会った2羽のセキレイはいつもと様子が違っていた。単なる被写体の枠を超えた、個性豊かな鳥たちだった。



