片隅のユートピア

野鳥を愛するシングルシニアの雑記帳

無人島に歩いて渡る

指宿には知林ヶ島(ちりんがしま)という美しい響きをもつ島がある。周囲3キロの無人島だ。

3~10月の大潮、中潮の干潮時には砂州の道が出現し、徒歩で渡ることができる。4月上旬の晴れた日、知林ヶ島を歩いて一周した。

知林ヶ島に渡るのは2回目だった。前回訪れたのは去年の10月。正直なところ、あまり良い印象は受けなかった。島内を一周するあいだに蛇を3回も見た。お目当ての野鳥にはほとんど出会えなかった。

今回も目的は野鳥撮影だった。ネットで見つけた「知林ヶ島マップ」の写真に、島内で見られる野鳥としてヤツガシラが載っていたのだ。

その案内板が設置されたのはかなり昔のようだった。それでも、この島で目撃されたことを示す確かな証拠にはなるだろう。

ホームタウンでヤッちゃんと会えれば嬉しさ倍増。期待に胸を膨らませて砂州の道「ちりりんロード」を歩いていく。陸側の田良岬から知林ヶ島まで約800mの道のりだ。

近くに見えるのに歩くとけっこう遠い。砂に足が取られる。波打ち際に近いほうが歩きやすかった。足裏をセンサーにして少しでも固い地面へと軌道修正を繰り返す。

島に着くといきなり急登が待っていた。南展望台まで60mの標高差をいっきに登る。老化による体力の衰えを思い知らされる苛酷な階段。

展望台から緩やかな道を下っていくと、休憩所の東屋が見えてきた。ここを起点に島内を一周する2キロほどの遊歩道が整備されている。

時計回りで島内を一周した。樹木に囲まれた苔むした道を下っていく。下りきると船着場のある海辺にでた。緩やかな上り坂を北展望台へと向かう。展望台を過ぎて灯台への道を左に分けてさらに進む。ほどなくスタート地点の東屋が見えてきた。

南展望台から田良岬方面

休憩所から船着場への道

遊歩道沿いの大木

休憩所の東屋

ヤツガシラは無理でも渡り鳥との予期せぬ出会いが待っている。その期待は叶わなかった。蛇も出ないかわりにめぼしい野鳥と巡り会うこともなかった。見かけたのはシロハラシジュウカラくらい。

それでも、萌える新緑のなかを歩くのは心地よかった。道沿いの景色が特に優れていたわけではない。鳥や虫の鳴き声、遠い潮騒の響き――自然が奏でるさまざまな音に浸りながら歩いただけだった。

快適なウォーキングの理由にハタと思い当たる。沿道でゴミを見かけなかったのだ。

山の林道を歩いていて大量のゴミを見るたびにゲンナリしていた。ヤブサメの鳴き声が響く谷間に冷蔵庫がブン投げられているのを見て哀しくなった。

知林ヶ島には貴重な「手つかずの自然」が残されていた。ゴミが捨てられていないという、ただそれだけのことだけど。