片隅のユートピア

野鳥を愛するシングルシニアの雑記帳

南薩の森を歩く

霧島かそれとも南薩か。鹿児島での移住先として最後まで競い合った2つのエリア。一時は霧島に決まりかけたのだが、条件を満たす物件が指宿に現れたことで形勢は逆転、最終的に南薩に落ち着いた。

引っ越したのは冬だった。霧島にしなくて良かったとしみじみ思った。指宿でもこんなに寒いのだ。標高の高い霧島の別荘地なら寒さで凍えていただろう。

その一方で、霧島山麓の深い森を歩く喜びは味わえないことを残念に思った。憧れのヤイロチョウとも出会えない。南薩エリアにも山はあるけれど、植林が占める割合が多くて味気ない。

春を迎えると意外な発見があった。植林で覆われていると思っていた南薩の山々が萌えるような新緑で輝いている。そのモザイク模様の新録を見て沖縄みたいだと思った。

新緑に彩られた南薩の森を歩いてみたい。森の精気を浴びながら野鳥を探す。そろそろ夏鳥の季節だった。ヤイロチョウは無理でも予期せぬ出会いが待っているかもしれない。

訪れたのは開聞岳。登山道は人が多いのでパス。山麓にひろがる開聞山麓自然公園へ向かう。

入口ゲートで370円の入園料を払って園内へ。しばらく進むと放牧されているトカラ馬の群れが見えてきた。さらに車を走らせて見晴らしのよい駐車場に停める。

車道を登っていくと森に入る脇道があった。その道を森の奥へと進んでいく。未舗装の道だが広くて歩きやすい。周囲に人はいない。新緑の森を独り占めにして歩く。爽快な気分だった。

名前の書かれたプレートが木の脇に置かれているのに気がついた。昭和40~50年代に新婚カップルによる記念植樹がここで行われたらしい。当時の指宿は新婚旅行先として人気を集めていた。

スギやヒノキではないけれど、ここも植林の森だった。 改めて見ると、木の大きさが均等で密度が高い気がする。それでも椎の木なので森は明るい。天然の木も適度に混じって雰囲気は悪くなかった。

道はさらに先へと伸びている。記念植樹のプレートはまばらになり、森はワイルドな様相を帯びてきた。

巨大な鉄のオブジェが忽然と現れた。廃車となったバスが森に放置されている。時間とともに自然に呑み込まれていく人工物。琴線に触れる被写体と出会い、嬉々としてカメラを向ける。

帰り道では夏鳥キビタキも見ることができた。開聞山麓の森は期待にたがわずエキサイティングだった。当初の予想とはだいぶ違っていたけれど・・・