内地に戻ったら旨い刺身を手頃な価格で食べられる。そう思って楽しみにしていた。
沖縄の魚がマズイというわけではない。カヤックでよく釣ったタマン(ハマフエフキ)は刺身でも美味しく食べられるし、カンパチやカツオも近海で捕れる。
それでも、刺身は全般に高めで鮮度もイマイチに感じた。安くて旨いと思えるのはカツオくらい。スーパーへ行くたびに刺身コーナーを覗いてみたが、実際に買うことはまれだった。
予想に反して、指宿に移り住んでも刺身を食べる機会は増えなかった。理由のひとつは、食料の調達先がスーパーからドラッグストアに変わったこと。
限られた種類の野菜や冷凍の肉、魚は買えるけれど、刺身は売っていない。市内のスーパーもいくつかまわってみたが、刺身は思ったほど安くない。見た目もあまり新鮮には見えなかった。
タイミングもあるのだろう。活きのよい旬の魚が刺身として安く出回っているときに当たれば、違った印象を受けたのかもしれない。
これからはスーパーの刺身コーナーをまめにチェックしよう。そう思いながらも、忘れてそれっきりになっていた。ドラッグストアで売られているイワシの缶詰や冷凍食品のサバの南蛮漬けでお茶を濁していた。
それでも、旨い刺身が食べたい! という強い欲求に駆られるときがある。鮮度の点でスーパーの刺身は期待できそうもないので、街の鮮魚店に目を向けた。
Googleマップで検索する。レビュー評価の高い店があった。週2日、火・木限定で海鮮丼と握り寿司を売っているらしい。
木曜の午前中に行くと、海鮮丼が売りに出されるのは11:30頃だという。その時間に出直して850円で購入。パッと見ただけで刺身が新鮮なのがわかった。盛られている魚の種類も多い。
名前を知らない白身の魚を食べてみた。鮮度がよくて旨い。酢飯もおいしい。舌鼓を打ちながら、ペロリとたいらげてしまった。どの刺身も旨かった。
ラベルの「原材料名」に魚の名前が書かれていた。カンパチ、マグロといった定番ネタに続いて、ホシガツオ、タカノハダイ、チヌ、クロホシフエダイ、コショウダイとローカルな魚の名前が並んでいる。
これは指宿の海鮮丼だと改めて思った。地元の海で捕れた魚を主体にして作られている。いわば地産地消の海鮮丼。
チヌ(クロダイ)とコショウダイは横浜の堤防で釣ったことがある。ホシガツオ(スマ)とクロホシフエダイは沖縄のカヤックフィッシングで釣った。一般には馴染みの薄い魚でも、釣り人にとってはわりと身近な存在だったりする。
横浜で釣ったクロダイとコショウダイは自分でさばいて食べた。どちらも美味しかった。当時はまだ30代だった。
50歳を過ぎて沖縄で釣ったスマとクロホシフエダイはリリースした。自分で包丁を握って魚をさばく気力はもう残っていなかった。
60代の半ばを過ぎた今はどうだろう。カヤックと釣り道具はまだ残してある。一念発起して錦江湾にカヤックを漕ぎ出せば、自家製の海鮮丼を作ることも夢ではないのだが・・・
沖縄の海で釣ったヒレナガカンパチ。主婦歴20年の飲み友達にさばいてもらった