それは釘を打ちつけるような音だった。近所で家を建てている。最初はそう思った。
夜の遅い時間にもその音は聞こえてきた。大工仕事ではないらしい。何の音でどこから聞こえてくるのか皆目わからない。
数日後、音の出所を突き止めた。我が家の給湯器だった。正確には給湯暖房用熱源機だ。浴室の乾燥暖房機に熱源を供給している。
音源は判明したが音の原因はわからない。20年前の給湯器なので老朽化が原因であることは察しがついた。
給湯器が自分の棺桶にみずから釘を打ちつけている。そんな妄想が湧いてきた。20年も働きづめなのだ。早く楽になりたいと願っても不思議はない。
給湯器の異音に呼応してシャワーのお湯が冷たくなった。浴室のリモコンに613のエラーが表示される。調べると燃焼ファンの異常らしい。
それでも、しばらくは騙し騙し使うことができた。給湯器のコンセントの抜き差しやリモコン・スイッチのオンオフで復旧したのだ。
それも先週までだった。613がどうやっても消えてくれない。しばらく前から釘を打ちつける音もしなくなっていた。棺桶の蓋はすでに閉じられてしまったのか。
乾燥暖房機はウチの自慢の機器だった。浴室を暖めれば冬でもシャワーでイケる。雨や降灰の日には風呂場で洗濯物を干せる。自動湯張り機能を使えば、風呂が沸いたことを音声で知らせてくれる。
楽チンこのうえないのだが、新たに買い直せば10万以上はするだろう。もったいないのでシンプルな給湯器で済ますことにした。
Amazonでパロマの給湯器を32,000円で買う。取り付けはプロパンガスの業者に頼んだ。新しい機器は5日後に設置される。
それまでは水のシャワーだ。内地では無理だろうと最初は思った。が、異常気象で11月でも暖かい。なんとか気合いで乗り切ることができた。
リモコンなしの新しい給湯器は至ってシンプル。水道のレバーを右に回せば水が出て、左に回せばお湯がでる。真ん中はぬるめの温水だ。すぐにお湯が出るのでガス代がかさむ気もするのだが。
問題は浴槽に湯を張るとき。自動湯張り機能がないので水温と水量を自分で調節する。何度か試して最適解を見つけるしかない。
もっとも、ここは指宿だ。温泉の公衆浴場を安く利用することができる。内風呂の殻を破って温泉めぐりを楽しむのもいいかもしれない。
そう考えたら、冬の到来もまんざら悪いことではないような気がした。