図書館で借りたい本があった。宮島未奈の「それいけ!平安部」。いつ検索しても「貸出中」で手に入らない。先日、やっと借りて読むことができた。
宮島未奈といえば、2024年の本屋大賞を受賞した「成瀬は天下を取りにいく」が有名だ。その続編である「成瀬は信じた道をいく」、婚活業界を舞台にした「婚活マエストロ」に続いて、この作者の小説を読むのはこれで4冊目になる(以下、一部ネタバレあり)。
この作品は高校が舞台だ。物語は春の入学式で幕を開ける。主人公の牧原栞は、教室で出会った平尾安以加に「この高校に平安部を作りたい」と告げられる。
栞と安以加の関係は、「成瀬は天下を取りにいく」の成瀬と島崎のそれを彷彿とさせる。島崎は成瀬ワールドのナビゲーターであり、成瀬の人物像はこの幼なじみを通じて浮き彫りにされる。とはいえ、マイペースで常識にとらわれない成瀬と比べると、安以加はずっとマイルドで社会性が高い。
成瀬と安以加には共通点もある。目標の実現に向けて邁進する行動力だ。平安部を創設するには部員が5人必要だった。部員集めに奔走する栞と安以加はついに3人を確保し、平安部は創設が認められる。
「平安時代」からは和歌や絵巻物、十二単といった奥ゆかしいイメージしか湧いてこない。LINEでつながった今どきの高校生たちは、令和の平安部でどんなドラマを紡いでいくのか。
平安の心を学びたいと本気で考えているのは安以加だけ。あとの4人はモチベーションが希薄だった。それでも、仏像のトランプから始まった部活動は、歴史博物館を訪問したり「平安」を習字で書いたりと広がりを見せていく。
そして、5人は蹴鞠と出会う。文化祭で蹴鞠の体験コーナーを作るという思いつきが発端だった。平安部は実績作りのために「蹴鞠選手権」への出場を決める。
蹴鞠選手権では5人が円になってラリーの継続回数を競う。鞠を蹴り続けるためにはチームメイトが一致団結しなければならない。本番に臨んで円陣を組む5人。そのとき発した掛け声が「それいけ!平安部!」だった。
最初は軽いノリに感じたこのタイトル。5人を結びつける掛け声であることを知ると、何だか凜とした響きを帯びてくる。
仲間を信頼し、ミスは互いにカバーして、蹴った鞠をひたすらつないでいく。行き交う鞠が互いの絆を深めていく。
物語のフィナーレを飾るのは秋の文化祭。でも、この蹴鞠の場面が一番好きだ。5人の平安部員が仲間意識を強めていく様子が蹴鞠を通じてドラマチックに描かれていた。
宮島未奈の小説は読みやすい。文章が軽快でサクサク読める。視点主である栞の語りもウイットに富んでいておもしろい。
読後にほっこりした気持ちになれる。それも宮島作品にハマる理由かも。嫌な作中人物が見当たらないのだ。それぞれの人間が持つポジティブな側面に光を当てる。それがこの作者の小説作法なのかもしれない。
影が薄かった元サッカー部の1年男子は、蹴鞠のリーダー兼トレーナーとしてチームを導いていく。コミュ力に優れた2年女子は機転を働かせて栞と安以加をサポートする。女子の人気が絶大なイケメンの2年男子は、文化祭で客寄せパンダの役回りを甘んじて引き受ける。部員のひとりひとりが自分の強みを発揮して平安部を盛り上げていく。
Wikipediaによると、作者の宮島は高校時代が「大嫌い」だった。「こういう部活があったらよかったのに」という願いを込めてこの小説を書いたのだという。
この本を読んで平安部に入りたいと思う人はたくさんいるだろう。かくいう私もそのひとり。ページを目で追いながら、6人目の部員として蹴鞠を蹴っている自分がいた。
今から続編が待ち遠しい