沖縄でアパートに住んでいたとき、一戸建てならアレもできるコレもできると夢想していた。本格的なオーディオ装置でジャズやクラシックを聴いたり、犬を飼って絆を深めたり・・・
夢が叶って一戸建てに引っ越して2年が過ぎた。アレもコレも実現しなかった。音楽はBGMで流れていればオッケー。ペットを飼わなくてもバーチャルなYouTubeの犬たちが癒してくれた。
動画を観ていて、こんな犬と暮らせたら幸せだろうなとは思う。でも、実際に飼うのは難しそうだった。犬を連れていたら野鳥撮影はできそうもない。家で留守番をさせるしかないだろう。それも不憫な気がした。
犬の飼育には心理的なハードルもあった。子供の頃、飼っていた犬を十分に世話してやらなかったという苦い思い出があるのだ。
小学生の頃、犬を飼いたいと親にせがんだ。ほどなく、毛むくじゃらの子犬が家にやってきた。ぬいぐるみのようで可愛かった。
最初は子犬に夢中でよく世話をした。中学、高校と進むにつれて犬への関心は薄れていった。犬に飽きて持てあます息子に代わって父が犬の散歩をするようになった。
学生の頃、自宅に来た友人に犬を見せたことがある。家の壁と塀に挟まれた、日の当たらない一角で飼われている毛並みの悪い犬を見て、彼はショックを受けたようだった。
ダメだよ、ちゃんと世話をしてあげなきゃ・・・犬の頭をなでながらそう言った。最初は小さく吠えていた犬は、鼻を鳴らして彼にすり寄っていった。
それから間もなくして犬は死んだ。犬の死を知らされて、頭をよぎったのは悲しみではなくて罪悪感だった。ろくに世話もしなかった人間に悲しむ資格などないと思ったのかもしれない。
気まぐれな愛情を犬に注ぐことはあった。ギュッと抱きしめると、身動きできなくなった犬は恐怖に駆られて「あひん」と鳴いた。その高く澄んだ鳴き声を聞きたくて、たびたび抱きしめるようになった。
十数年は生きたので寿命はまっとうしたのかもしれない。でも、幸せな一生だったとは思えない。それ以来、ペットを飼うのはヤメようと思った。飽きっぽくて薄情な人間には向いてないのだと。
犬のぬいぐるみならどうだろう。ぬいぐるみを抱きしめると「愛情ホルモン」のオキシトシンが分泌されるとか。本物の犬は無理でも、ぬいぐるみなら簡単に買える。さっそくAmazonで探してみた。
LIV HEARTの「ねむねむアニマルズ」シリーズに良さげな犬のぬいぐるみを発見。柴犬やビーグル、ゴールデンレトリーバーなど、犬種はいろいろあるのだが、個人的にはトイプードルが気に入った。
ほかの犬種は顔が可愛らしくデフォルメされているのに対し、トイプードルは本物に近い感じ。というか、トイプードルの見た目がぬいぐるみのようなのだが。
犬種はトイプードルにした。ぬいぐるみの色は飼っていた犬に近い白にする。

トイプードルのミルク(Large)
ネット通販の商品は、色やサイズはわかっても質感は手に取るまでわからない。予想と違ってガッカリすることもある。
トイプードルのミルクは、Amazonのレビューを読んで想像したとおりの質感だった。肌触りがよくて、抱き心地がとてもいい。柔らかくて弾力がある。顔もカワイイ。
リクライニングチェアで昼寝をするとき、ミルクを腹の上に抱いて目をつむる。モコモコした毛を両手で触っていると、本物の犬を抱いているような気がする。
自分の呼吸に合わせてミルクも息をしていた。ぎゅっと抱きしめる。「あひん」という鳴き声が頭のどこかで聞こえたような気がした。