片隅のユートピア

野鳥を愛するシングルシニアの雑記帳

川のほとりで啼く鳥は

先週から同じフィールドに通っている。樹木がうっそうと茂る谷。谷底を渓流が跳ねるように流れている。

先月、オオルリを撮影した「マダニの谷」と渓相は似ているが、こちらのほうが規模は小さい。川に下りられる場所も限られている。

オオルリ撮影の候補地としてGoogleマップで見つけた場所だった。メリットは自宅から近いこと。「マダニの谷」へは車で小1時間かかるが、ここは30分もかからない。

本命のオオルリにはまだ会えていない。それでも、夜寝るときは明日もあそこへ行こうと思う。川のほとりでアカショウビンの鳴き声を聞いたのだ。

沖縄に住んでいたとき、アカショウビンは身近な存在だった。今の時期、山に行けば鳴き声はよく聞いたし、飛び去る後ろ姿もたびたび目にした。

それでも、撮影の機会は限られていた。沖縄で撮ったアカショウビンの写真はどれも偶然の産物だった。ほかの鳥を撮っていたときに、たまたま近くの木へ飛んできたとか。鳴き声を頼りに撮影にこぎつけるのは至難のワザだった。

今回も撮影についてはそれほど期待していない。確かなのは、その渓谷にアカショウビンが棲んでいること。鳴き声が聞こえる場所はだいたい同じなので、近くで営巣しているのかもしれない。

そこは周囲から隔絶した空間だった。近くに車が行き交う道路があっても、ほとばしる渓流で騒音は聞こえない。水音に混じってさまざまな生き物が発する音が異空間を満たしている。

そこにいると、谷間と一体化して自然を織りなす構成要素になった気がした。このまま川のほとりで待っていれば、アカショウビンが飛んできて近くの木にとまるかもしれない。そんな期待を抱かせる神秘的な雰囲気に満ちていた。

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高い位置から水の流れを眺めていると、茶色い鳥が川の上を飛んでいくのが見えた。視界から一度消える。そのあと川岸の岩に舞い下りた。カワガラスだった。

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朝の8時半をすこしまわった時刻。谷底まで差し込んだ光がカワガラスの羽毛をくっきりと描き出す。もっと早ければ光が届かず、遅ければ光が強すぎた。ちょうどよいタイミングだったのかもしれない。

アカショウビンを撮影できる可能性は低いけれど、もうすこし通ってみようと思った。姿は拝めなくても、鳴き声は聞けるだろう。

眼福はなくても耳福がある。そう思うことにした。